お薦めの一冊
border

知られざる巨大業界の謎を解く 「日本の建設産業」金本良嗣 編
/日本経済新聞社/山中省吾 (1999/08/24)
執筆陣を見てみよう。10人中9人が大学の先生であり、そのうち5人は東京大学の先生である。何故いきなり執筆者かというと、知られざる巨大業界の謎を解く「日本の建設産業」というちょっと刺激的なこの本を手にしたとき、新進気鋭のジャーナリストが、いよいよこの業界の問題点にメスを入れたか、と思ったからである。どっこい、それが、大学の先生、しかもそうそうたる肩書きの先生が9人も集まって…。
かつて、RIBA(王立建築家協会)150周年記念式典に招待されたチャールズ皇太子は、官僚や建築家や設計者への辛辣な非難で口火を切った。「我が国の官僚は民衆の要望に答えていない。そしてまた、設計者と建築家もこの国に住む大多数の普通の人たちの望みや気持ちをずっと無視してきた」。この演説を契機にイギリスの設計業界は大きく変っていった。果たして日本の皇太子がJIA(新日本建築家協会)の記念式典に招待されたなら、どこまで本音をいうことが可能なのだろうか、と思った。同じように、大学の先生たちも、どこまで本音(真実)を書くことが可能なのだろうか、と思った。
本書の内容は、公共工事を取り巻く建設産業について書かれている。先生、そこまで言っちゃっていいの、建設省からお叱りがこないの、みたいなところもあるが、そこは上品な執筆陣、なるべく客観的に学術的に表現しようという姿勢がうかがえて、公正な見方に努めているように思った。細かいことを言えば、それはどうかな?というところもあった。
ともあれ、ジャーナリストではなく、学術界からこのような本が出されたということは、1歩前進、このままではいけないぞ、という気持ちの現れだと思う。もしかしたら官僚側にも、変えなければいけない、という機運が起こっていて、この本はその前触れかもしれない、そうならいいな、と思いながら読み終えた。
オープンネット/やまなか しょうご
border

mailto:staff@open-net.co.jp