コラム/建築革命宣言!
第1回
上杉鷹山
〜新しい考え方と古い考え方のぶつかり合い山中省吾 1999.05.21
5月14日(金)にオープンシステムの全体会議を開きました。今年に入ってからの新入会員の数が全体の半数を占め、会員の中から「そろそろやろうよ」という声が出てきたからです。前回は1月12日に第1回全体会議を大阪で行いました。そのときは正会員16社のうち15社が参加しました。今回も大阪で行いました。正会員31社のうち28社、他にオブザーバーとして2社の参加もありました。会議の内容と参加者の声はニュース・イベントのコーナーで紹介しています。
私は今年に入ってから半分くらいがホテル住まいの日々です。1週間を通して米子にいたことがありません。出張は愛用のキャリーバッグを引っ張って移動します。なんと、私の手のひらには「キャリーだこ」ができています。「ゴルフのたこ」でないところが自慢です。こんなジプシー生活ができるのもモバイルのおかげです。新幹線でもホテルでも情報のやり取りができるからです。
移動生活の良いところは、本がたくさん読めることです。今回も例の如く、大阪で全体会議、名古屋で設計事務所と質疑、懇談、東京で入会希望の設計事務所2社と面接、OEMメーカーと打合せと、盛り沢山でした。家を出るときに家内の本棚から拝借した本が「小説上杉鷹山」です。ひところ話題になったのは知っていたし、家内からも、「面白かったよ」と聞いていた本です。
米子から大阪へ行くには、伯備線の特急「やくも号」で一旦岡山へ行きます。2時間少々かかります。あとは新幹線で約1時間です。
「この本は結構面白いではないか…」。 車中で手にした「小説上杉鷹山」です。私にとって、本を読むということは、娯楽や趣味というよりは仕事の一部、いや人生における栄養のようなものです。オープンシステムは単なる建築の手法というより、どちらかと言えば考え方、生き方、あるいは思想的な要素を多く含んでいます。だからどうしても、何が真実で、何が本物で、何をすべきか、というところへいってしまいます。ストーリーの面白さよりも、時代背景とか、作者はこの人物を通して何を言おうとしたのかとか、あるいは歴史上で同じようなことはなかったかとか、自分ならどうするか、などを掴み取ろうとします。だから「はじめに」とか「あとがき」を最初に読むことにしています。「解説」があればそれも先に読みます。
手元に本が無いので、印象的な話になるかもしれません。何が凄かったのかと言うと、その時代に民衆の生活を中心に考えて改革を実行したことです。 「あんな時代にこういう人物がいたなんて、大したものだ」。 江戸時代です。田沼意次が安政の改革をしたころですから、江戸時代の中期です。18世紀の中ごろで、フランス革命よりも少し前のことです。米沢藩の若き藩主が、封建時代の真っ最中に民主主義を唱えて財政改革に乗り出したのですから、その大騒ぎと既存勢力の抵抗たるや、建築業界におけるオープンシステムの比ではありません。一つ一つのもっともなことが、その時代では「とんでもないこと」なのです。
上杉鷹山の名前から連想できるように、米沢藩のルーツはあの戦国時代の名将上杉謙信にあります。豊臣側に味方したので、領地は何分の1かに縮小されたものの、プライドだけは引き継がれています。ですから、旧領地の時代の家臣をリストラすることも無く、そのまま引き継いできました。藩の収入に対する人件費(家臣や藩士の給料)は、なんと、80数%を超えていたと言います。企業ならとっくに倒産です。今の日本の財政に似てなくもありませんが…。
何で数千人も引き連れた大名行列が必要なのか?この財政難に。何で数十兆円もの公共投資が必要なのか?この財政難に。節約はできないか。今の日本と本質的に同じです。鷹山は実行します。大名行列(参勤交代)に要する経費の削減は、藩の改革のみならず、即ち幕府の方針に対する反抗(批判)でもあります。
鷹山は家臣や藩士全員を集めて、藩の財務状況ありのままを公開して意見を求めます。税金が何処でどのように使われているのか、役所が情報公開をしたのです。
「出勤しても仕事が無ければ家に居ろ。空いた時間を利用して庭を開墾しろ」。 そのころの武士にはほとんど仕事らしい仕事は無かった。今の公務員も?と言えばそれは言い過ぎです。戦争が無い時代なので武士に仕事が無いのはあたりまえです。フレックスタイムの実行と、武士も農業、工業をして生産をアップしようと。士農工商というその時代の価値観の大転換です。
反対する者、怒る者。改革は容易にはできません。その中から身分の低い武士、農民、町民を中心に少しづつ改革が進められていきます。 「何のために。それは民が幸せに暮らせるように」。 鷹山の改革は、民主主義の思想に基づいた「生き方」の改革だったのではないか、と小生は思ったのです。
「大したもんだ」。
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