コラム/建築革命宣言!
第3回
「分断から融合へ」〜その1 山中省吾 1999.05.28
※この文章は雑誌社から依頼を受けて寄稿したものです。その1〜その4まで4回に分けての掲載です。
そんなこと、このギョウカイで・・・
読者の皆様、ちょっと付き合ってください。板金の専門的な話ではありません。「ギョウカイ」のことです。私は建築の設計者です。鳥取県米子市の小さな設計事務所(所員は6人)の代表者です。それともう一つ、全国の設計事務所をネットワークする会社を昨年の秋に創りました。その代表もしています。
平成4年にこのようなことをやり始めた頃は「そんなこと、このギョウカイで通用するはずないやろ」とずいぶん言われました。私にとっては「当たり前のこと」だったのですけど。でもやってみると、けっこううまくいきました。もちろん、新しい考え方の新しいシステムですから、お客様やギョウカイの人たちに理解していただくには、それなりの苦労もありましたが…。
分離発注で
平成4年、レストラン改造工事の設計監理を受託しました。まだちょっとバブルが残っている頃です。工務店から見積をとりましたが、工務店はまだ仕事がいっぱいある時期で、強気でした。 「その工期では無理、もう1ヶ月伸ばしてもらわんと、職人があつまらん」工期は1ヶ月です。レストランのオーナーと協議をしました。工期の延長はできません。そこで、工務店に頼らないで直接専門工事会社に分離で発注することにしたのです。知り合いの大工さんや左官さん、電気工事や水道工事など必要な業種に声をかけました。
「大将、なんとか助けてもらえんかな…」 支払いは1ヶ月後の完成時に、レストランのオーナーが直接現金でという条件。時間が無かったので、細かい金額も決めずに即着工しました。工事の管理をしながらそれぞれの業者と価格を折衝。当然のことながら、工務店はいないので私自ら現場を管理。無事工期内に完成。
あたりまえのこと
支払日。レストランのオーナーはご満悦です。当初工務店が見積ってきた金額より、工事費が約3割安くなっていたからです。
「工務店は施工のプロなのに、なぜ…?」 普通は素人が玄人のまねをしても、余計に手間がかかったりして、かえって割高になるものです。読者の皆様はもうお解りでしょう。 「そんなことあたりまえじゃないか」と。あたりまえのことですが、私が自らペンキを塗ったわけでも、釘を打ったわけでもありません。私はいろんな業種の方が混乱しないように、現場に入る順番を決めただけです。しかも現場の皆様の知恵を借りながらです。この「あたりまえのこと」が「オープンシステム」のきっかけであり、原点です。あれからもう7年経ちました。口コミで少しずつ広がってきました。大阪や岐阜、あるいは岡山や広島から「自分も同じことを考えていた」という設計事務所の方が現れ、いつのまにか自然に設計事務所のネットワークができていました。
建築士は何のために?
「レストラン事件」は事務所の所員達にも、強い刺激を与えました。改めてこのギョウカイのことを考え直すきっかけとなりました。工務店(ゼネコンやハウスメーカーも)って何だろうか。お客様から仕事をいただき、それを下請という専門工事会社に分配して、工事を完成させます。お客様からいただく金額と、下請に支払う金額の差額が儲けになります。もちろん商売ですから、よりたくさん儲けることを考えるのは当然です。それは悪いことではありません。それでは、建築士はどうだろうか。これも商売ですから、儲けなければなりません。だけれど、同じように士(師)の付く職業で、弁護士はどうだろうか。もし弁護士が、犯罪や倒産が起きることを喜び、仕事が増えて儲かると思ったら…。医師は?儲けるために患者を利用したら…。税理士は?教師は?そして、建築士は?
お客様のために私たち専門家がいる
商売は本質的に騙しの要素を含んでいます。それはやむを得ないのですが、職業によっては自分の利益のために依頼者を利用したりだましたりすると、悲惨な事態も引き起こされます。犯罪者が弁護士を頼ってくるように、病気の人が医者を頼ってくるように、建築をする人が頼ってくるところがあってもよいのではないだろうか?それができる立場は?ゼネコン?否です。工務店?否です。ハウスメーカー?否です。それでは一級建築士?否否否です。日本には、そういう職業は無かったのかもしれません。
私たちは新しい職業を創ろうとしているのかもわかりません。デザインだけでなく、機能もコストも完成後の維持管理も、全てを含めたものが建築です。建築は生活そのものです。「業者のために客がいる」と言うのではなく、「お客様(生活者)のために私たち建築家がいる」というものをつくりたい。それがオープンシステムの建築士です。動機や目的は以上です。さらにもう一つ加えるなら、「このギョウカイに腹が立った」というのも本音です。
「分断から融合へ」〜その2に続く
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