コラム/建築革命宣言!
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第25回設計事務所と施工
〜ゼネコン経験15年から設計を語る〜
アイ・シー企画(株)
長谷川浩一
2000.07.12

 私は建築というものに携わって25年になる。最初の15年は中堅ゼネコンで現場監督。いろいろな設計事務所、設計者と一緒に仕事をしたことは、今日自分が設計事務所を営むにあたり貴重な経験となっている。そこで私が何故ゼネコンをやめ設計事務所を開いたかお話ししよう。
 設計者の施工に関する遊離した考えを、少しでも取り除く参考になれば、またこれからオープンシステムに取り組もうとする設計者の、指針の1つとなれば、幸いである。

◆建築の設計図とは何か
 ゼネコン経験も10年を経過すると、現場の責任者としての仕事に従事する。日々設計者と打ち合わせをして現場を進めていくなか、こんなことが続くようになった。
 「設計期間中に検討できなかったので、この部分の詳細を書いて下さい。施主にも言ってあるのでよろしく」
 施工者は工期に間に合わないので、渋々書くことになる。ひどい時には、平面詳細図そのものを一から書く。それも大手の設計事務所である。
 そこで疑問がわいてきた。設計っていったい何だ。今までも施工図は現場で書いていた。コンクリート寸法図、造作加工図、金物図など、これらはあくまでも工作図である。
 では設計事務所はいったい何をやっているんだ。社内の設計部に、ちょっと聞いてみた。
 「設計図面は見積ができればいい。後は現場でやってくれるから、余り細かいところまで書かない。書く時間もない」
 ちょっと待ってくれ、設計図は細かいところまで決めて、それを元に作っていくのではないか。例えば機械の設計図、ネジヤマ1つの寸法でも、決めていなければ作れないじゃないか。土木の図面でも、鉄筋1本1本の寸法が書かれているではないか。建築の設計図って、いったい何を書いているんだ。

◆あこがれの姿、現実の姿

 私自身建築を目指すきっかけになったのは、『超高層の夜明け』という映画。これは霞ヶ関ビル建設のドキュメンタリーだったと記憶しているが、颯爽と設計図を片手に、工事指示をしている人物にあこがれた。
 「俺も超高層ビルを造ってみたい」という安直な考えで、建築の道を選んだ。あれは自分の書いた設計図通りに建物ができているかどうか、チェック指示している姿ではなかったか?自分の書いた図面が不十分では、チェックするどころではないではないか?いつか自分が設計するときには、きちっと指示できるものにしよう。
 そんな話を、専門工事業者の社長と酒を飲みながらしていると、彼が愚痴をこぼす。
 「設計事務所がなかなか承認しないらしく施工図がない。現場監督に催促して渡されたものは、全くすりあわせができてない。やり直しや、出戻りが多くなって、困っているんだ。」
 その現場所長に逢ってみるかい、と社長氏。自分と同じ思いをしている人と話をしてみるのもいい。また、違うゼネコンの人と話をするのにも興味を持った。私は逢うことにした。
 その社長の現場は、私があこがれていた超高層の建設現場であった。
 彼は「施工環境の効率化と、品質のハイレベルでの均一化の中で、設計図のレベルアップは欠かせない。現在、自社設計のものについて、施工図を自動作成することに取り組んでいる。しかし他社設計物は、いったん生産設計図に書き直さなくてはならず、その部分に非常に労力がかかっている。その分野のアウトソーシングを進めているのだが、設計と施工に精通した人が少ないので困っている。それを今育成している最中だ」と言う。
 まさに考えていたとおりのことを、すでに会社として取り組んでいる。さすがにスパーゼネコンだ。
 折しもバブル絶頂期。『自分も一旗揚げたい』と常々考えていた私は、この所長の後押しと、逢わしてくれた専門工事会社の社長の支援で、かっこよく理想をもって独立した。
 独立当初、その所長の会社との仕事を手始めに、10数社のゼネコンとの取引ができた。しかし、やはり思いは、自分で設計して、その設計図片手に颯爽と現場で指示をしている姿である。
 バブルがはじけ、不況の風がひしひしと感じられるようになり、アウトソーシングの流れも変わってきて、もっと単純な物だけに絞られ、さらにそれすら人余り現象で、内部処理するようになってきた。このままでは夢半ばで終わってしまう。

◆設計と施工の思いの一致

 ふと雑誌を見ると、山中設計のことが載っている。これは何だ?設計事務所が何を言っているんだ。ゼネコンがいなければ、建物なんか建てられるものか。
 正直言って最初はおかしなことを考える人だなと思っていた。しかし、1つ2つとこの設計事務所の記事を目にするようになる。これは話を聞いてみる価値はありそうだと、米子まで車を走らせた。3時間余り熱っぽく話をしてもらった。
 そのとき私が思ったことは、これはまさに設計と施工の合体(設計施工を一括して請け負うという意味ではない)ではないか。私は施工の分野から、山中氏は設計の分野から、『このままでは建築崩壊が起き、建築に携わる者にとって危機的状況になるのではないか』。この思いが一致したわけである。
◇     ◇     ◇     ◇

これがオープンシステムとの出会いである。
オープンシステムは、設計者が施工の分野に自らを投じて、初めてなし得る考え・手法なのである。
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