コラム/建築革命宣言!
第36回
〜IT利用と住宅建設〜 「住宅産業に一石を投じたオープンシステム」(2)
山中省吾 2001.06.12
オープンシステムとは?
さて、ここで肝心のオープンシステムについて、説明をしなければならない。拙著「価格の見える家づくり」から一部を引用する。
―――以下引用
オープンシステムは多重下請構造、トラブル産業といわれ「建築は分かりにくい、見えにくい」といった建築主の不満や不安に対して、
@ 建築主の思いを建築物に確実に反映させるために
A 分離発注、原価公開で建築コストの透明化をはかり
B 設計事務所のネットワークでノウハウやサービスの共有化で
C 共同発注と競争原理の導入で良いものをさらに安く
D 建築補償制度の導入で安心して
E 建築主、設計者、専門工事会社はイコールパートナーとして
という概念を打ち出し、建築主主導で進められる新しい建築の形である。
ポイントは、建築主と設計事務所が業務委託契約を結び、設計事務所は建築主の代理人として、設計から建物の完成まで一連の業務を行なうところにある。建築主は、住宅メーカーや工務店を通さず、仮設足場工事、基礎工事、屋根工事、サッシ工事…といった専門工事会社と工事請負契約を結んで建物を完成させる。
従来は、建築産業ピラミッドの頂点にあるゼネコン、ハウスメーカー、工務店など元請会社が建築主と工事請負契約を結び、下請会、協力会といわれる系列の下請け会社(専門工事会社)に仕事が回される。
さらに大手になれば、地方の工務店に一括して工事が発注され、そこからまた専門工事会社に仕事が回るという元請・下請・孫請という多段階の構造がある。これが「多重下請構造」と呼ばれ、日本特有の形態になっている。
工事代金はこの流れとは逆で、上にいくほど工事代金+経費が上乗せされる。そして建築主への請求の中には、モデルハウスの維持費、テレビCM、営業マンの経費、サービスで提供する設計費用など、目に見えない費用が加算されていく。
また、営業、設計、現場管理という分業形態は企業としての効率は良いが、建築主の思いが正確に伝わらなかったり、建築が規格化、パッケージ化という手間のかからないほうへ進み、しだいに創造力が失われつつある。建築は複雑であるが故に業者任せになってしまったり、最悪の場合、欠陥住宅をつかまされてトラブルに巻き込まれる場合もあった。
オープンシステムはこうした建築産業への疑問、建築主の不満や不信感に、建築家として誠実に応えていこうと始まった。「建築を依頼する人が主役」となり、オープンシステムの設計事務所が「建築主の良きパートナー」となって建築を進めていくのである。
これまでの方法は自分の建物にもかかわらず業者(建築の元請会社)任せで、あとは出来上がった結果だけを建築主が受け取る、という受動的な関わりになりがちだった。
オープンシステムでは建築主が積極的に建築に参加し、重要な部分は建築家と共に結論を出していくという形で進められる。その為、価格を含めて情報はすべてオープンにされる。「業者のために客がいる」という考え方ではなく「建築主のために専門家がいる」という思想がオープンシステムの根幹である。
―――引用終わり
IT活用がオープンシステムの求心力に
共通の価値観立った設計事務所が、共通の手法で家をつくっている。ところが参加設計事務所の個性は一つ一つ違う。出来上がった建物も一つ一つ違う。だから、ITが一層生かされているとも言えるのだ。
いわゆる住宅のフランチャイズなら、基本的に同じ家をつくる。この場合の情報伝達は極めて単純だ。本部で決めたものを、一方的に加盟工務店に流せば済む。マニュアル化された印刷物でもこと足りる。勿論ITの活用も考えられるのだろうが、効果は薄い。
ところが、私たちのように個性溢れた設計事務所のネットワークはどうか。そこには規格化された住宅は存在しない。あるのは共通の価値観と手法である。必要な情報は極めて多岐にわたる。営業に関する情報、法規に関する情報、設計に関する情報、建材の情報、単価の情報、工法に関する情報、地域的な特殊要因…。限りがない。だからこそ、IT抜きでは不可能だ。
参加設計事務所の中には、それぞれの分野のエキスパートがいる。知らないことを質問する。すると、エキスパートが即座に答える。自分の経験やノウハウを公開することで、その何十倍もの有益な情報を共有できるからだ。こうして常にスキルアップしながら変化を続け、時代に即応した柔軟なネットワークが保たれている。
完全に舗装された道には花も咲かない。草も生えない。規格化された住宅は完全に舗装された道のようなものだ。私たちのネットワークは地道である。花が咲き、草が生える。そして、種が飛ぶ。種が情報だ。こうしてITの活用がさらに求心力を強固にしている。
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