コラム/建築革命宣言!
第38回
〜IT利用と住宅建設〜 「住宅産業に一石を投じたオープンシステム」(4)
山中省吾 2001.06.12
こころからお礼を…。
では、住宅産業の泥臭さの一端に触れてみよう。まさに皮肉な話である。こころからお礼を言わなければならない。小生の事務所(山中設計)では住宅の計画案や資金計画書をつくらなくても、オープンシステム業務の委託契約を交わしている。ハウスメーカーや工務店ではとても考えられないことだろう。
これからつくる建物はどのくらいの規模になるのか、どのくらいの総工費になるのか…。資金的な目途が立たなければ、建築主はとても契約などできない。それはしごく当然のことではある。それでも、1枚も図面を描かないで契約している。何故だろう。そう、賢明な読者はもうお分かりだ。
どうやら世の中には無料で設計図を描いたり、資金計画書をつくったりするところがあるらしい。しかも、頼まれもしないのにわざわざ家庭まで訪ねて行って、それも昼夜を分かたずに相手の時間帯に合わせ、家をつくりたいという話を聞くや、まるで時を惜しむように一刻を争って設計図面と資金計画書を提出する。中には、現地調査といって、敷地測量、高低測量、道路等周辺の調査をして、きれいに写真まで貼りつけて届けるところもある。
小生の事務所では、計画案をつくるところから有料としている。建築士業務委託契約を交わさないうちは計画案をつくらない。このようなやりかたが可能なのも、建築主の大部分が事前に「世間の無料学校」で一通り勉強を済ませているからだ。
まだその気になっていなかった建築主が、粘り強い説明と説得で腰をあげ、基本計画と資金計画を提示されて家づくりの目途がたった。しかるべきところで設計してもらい、家をつくろうと小生の事務所へ見えられる。こんなありがたいことがあってよいものだろうか。
営業マンが家をつくっている
前述の例のように、サービスで図面を描く。モデルハウスを建設する。宣伝広告を打つ。営業マンが走りまわる…。やっと受注できたときには、既に多くの経費を使っている。だから、どこかで経費をおさえようとする。そして、それは設計と現場管理をいかに簡略化するかに目が向けられる。これは、すべての住宅メーカーに当てはまるわけではないが、おしなべてこういう傾向になっている。
建物各部の仕様を極力標準化する。そうしなければ営業マンが動けないからだ。営業マンは建築主から聞き取ったことをチェックリストに記入する。建築予定地は? 家族構成は? 所要室は? 階数は? トイレは各階に?
設計者は営業から回ってきたチェックシートをもとに、設計図を描く。現地調査や、確認申請等の業務は、設計事務所に外注するところもある。こうして建築主と設計者は一度も顔を合わせないで、設計図が描かれる。設計者が一度も建設予定地を見ないまま、設計図が描かれることだって、そうめずらしいことではない。(もっとも、これはサービスなのだから文句は言えないが。)
チェックシートの項目をとりあえず満たした設計図を持って、営業マンは建築主の元へ走る。いくつかの変更や修正がチェックシートに記入され、再び設計へ回る。このようなやり取りが何回か繰り返されると、上司から雷が落ちる。
「設計図面の提出は3回以内で、成約させるよう会議で話し合ったはずじゃないか。5回も6回も描き直していたら、経費など出てこないだろう!」
工事管理も、根本は設計と同じだ。一人の現場監督が同時にどれだけ多くの現場を管理することが可能か、というところから物事が進む。そして、設計、管理の標準化をさらに進める。この部分にITを導入し、効率を求めるだろう。住宅メーカーが力を持っている現状では必然の流れとも思うし、やはりこの流れが主流なのだろう。
今後、オープンシステムが住宅建築の主流になり得るとは、これっぽっちも思っていないが、規格化、標準化が進むことによってオープンシステムの最大の特徴である自由性、創造性は益々鮮明になるに違いない。
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