コラム/建築革命宣言!
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第41回新潟県で唯一のオープンネット会員
「米百俵の精神」の生きる長岡での孤軍奮闘記
田中幸人 2001.09.05

小泉首相の「米百俵の精神」の連呼で、一躍名を馳せた新潟県長岡市。新幹線・高速道路工事を中心に、県内の同業者から妬まれるほどの好況をみせた同市も、今は他と同じく不況にあえいでいる。挙c中建築設計事務所の田中幸人さんは県内で唯一のオープンネット会員だ。この十年、公共工事から個人住宅への方向転換をしてきた。それは単なる不況の打開策だけでなく、建築設計本来の魅力と素晴らしさを広くアピールするチャンスでもある。

長岡を襲う厳しい現実
 5月の小泉首相の所信表明演説で「米百俵の精神」が語られると、長岡は全国の注目を集めた。北越戊辰戦争で焦土と化した長岡藩に届く、百俵の見舞いの米。目先のことにとらわれずに米を売り払い、学校建設に資金を注ぎ込んだ小林虎三郎の精神は、今も市民に受け継がれている。
 学校の新築、改築が途切れることのなかった高度成長期。新幹線、高速道路の工事が延々と続いた時代。地元旧新潟三区の田中角栄元首相がその強力な政治力を背景に公共工事を長岡に引っ張ってきた。だが時は流れ、不況が長引く昨今、ここにも厳しい現実がのしかかる。
 「設計業界で働く若い人が少ないことが一番の問題です。設計事務所を経営する40歳以下の人は、長岡には数えるほどでしょう」
 と語るのは、挙c中建築設計事務所の田中幸人さん。新潟県で初、今も唯一の会員としてオープンネットに参加するパイオニアだ。長岡には建築設計・デザインを学べる大学が2校あるが、就職の時期になるとほとんどの学生が首都圏に出て行くという。地元で設計士の新規採用をする会社がほとんどないのだ。たとえ地元で就職できたとしても仕事の内容は厳しく、続けていくことは非常に大変だ。

オープンシステムの思想に共感
父親の代から設計事務所を営む田中さんは、仕事が減ってきた10年前から将来の不安を抱くようになった。県内の大きな建設業者2社が倒産した3年ぐらい前からは、いつどこが潰れてもおかしくない状況が続いている。さらに追い打ちをかけるように今年、県や市の発注仕事はほぼゼロだという。
 そんな中でも設計事務所の数は増加し、仕事はさらに減少してきた。設計事務所で食べていけるのかと疑問、不安が募ってきたが、地元の設計士と仕事のことを相談する機会は少ない。どこかで変わらないとダメになると悩み続けているうちに、オープンシステムに出会った。
 オープンシステムを知るきっかけは7,8年前に雑誌の記事で見かけたのが最初だった。田中さん自身今までの住宅建築のあり方に疑問を持っていた。そんな時に出会ったオープンシステムの「打ち合わせから工事の完了、アフターまで設計士の立場を貫いて、いいものを作る」という基本姿勢に共感を覚えた。田中さんは今年50歳。現役としてあと10年と考えた時、引退するまでにお客さんに心の底から満足してもらえるような理想の家づくりを実現したいという思いが募っていた。設計士も施主もお互いに満足できるオープンシステムは田中さんの求めていた家づくりの考え方に見事に合致した。

お客さんとのコミュニケーションがいちばん大事
 田中さんは施主との対話不足や欠陥住宅の問題など仕事をもらうまでは努力するが、もらってしまえばこっちのものという建設業界の姿勢そのものが問題だと考える。
 「いちばん大事なのはお客さんが納得するまで話し合い、コミュニケーションしながら造るということです。完成してからの住み方を一緒に考えながら家を造り、満足していただく。建築を目指す者にとっては、こんなコミュニケーションがいちばん大事だと思っています」
 また田中さんは今年1月、同年の仲間4人と「越後・森とすまいの会」を立ちあげた。現在、会員は20名で、地元の木を材料に使う家づくりをメインテーマに、広い範囲の啓蒙活動を行っている。秋からは住宅講座や山歩きなどを予定している。具体的な活動はまだまだこれからだが、田中さんのやる気はビシビシと伝わってくる。
 「1人で孤立しないで、地元の仲間も作っていく。理解者を増やす努力をしていけば、オープンシステムの会員が増えるのは時間の問題でしょう」と田中さんは考える。
 地元で進行する活動は、田中さんの心の拠り所でもある。オープンネットでは県内唯一の会員だが、名古屋で行われた東海・北陸会議やメーリングリストを介した交流を通して「孤立感はまったくない」と田中さんは言う。
 この夏、オープンシステムでの第一号契約者が誕生しそうだ。県内の専門工事業者に向けて説明会を開き、オープンシステムへの理解と協力を求めるなど、やることは山ほどある。何から何までが初めての経験だけに、これから歩く道のりは非常に困難が予想される。しかし田中さんのやる気は本物だ。
 施主から「家にいたいな、と思える自宅にしてほしい」とリクエストされたという。「実はこれが1番難しいんですけどね」と笑いながらも、新たな挑戦に意欲を燃やしている田中さんだ。
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