コラム/建築革命宣言!
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第42回相手の顔が見える家づくり
造る人の心を大切にし、気持ちの入った家を造る
大塚尚幹 2001.10.16

「価格の見える家づくり」はもはや当たり前!? SHOKAN designの大塚尚幹さんは、自身の苦い体験から「顔の見える家づくり」を信条としている。「顔の見える」とは、家に暮らす家族、実際に建てる職人の両方の顔を指す。今年の3月にオープンシステムでアトリエ兼住居を完成させた大塚さんにとって、それは“ものづくり”に携わる人間としての信念といっていいだろう。

造る人の気持ち、心を大切に
 東京の美大を卒業し、大塚尚幹さんは熊本で公共工事主体の設計のコンサルタント会社に就職した。そして、横浜に戻り、昨年3月、SHOKAN designを開いた。29歳と若い大塚さんの建築設計への想いは、熊本での3年間で決まった。
 当時、値切ってもいないのに大手の見積もりの半分以下で出してくれる鉄工所があった。安くて仕事もしっかりやり、その真面目な仕事ぶりに大塚さんも懇意にしていたが、突然の倒産。理由は発注業者の連鎖倒産だった。
 また公園と遊具の計画設計を担当した時には、町長のひと声で地元商社が参入。何もしない地元商社が入札予定額の3割をもっていったこともあった。
 見積もりや積算を1人で担当していた大塚さんに、大きな疑問と憤りが膨らんでいく。真面目にコツコツと仕事をしている人が報われない。「造る人の気持ち、心を大切にしたい」という思いが募っていったという。

「相手の顔が見える」仕事がしたくて住宅設計へ
 「何かおかしい。これじゃいいモノはできない。なんとかしなくちゃと感じたわけですよ。家を見れば一生懸命造ったのか、手を抜いたのかわかる。お金を払って造りました、形ができましたではなく、お金ではない別の価値、気持ち、心を建築の1つの価値観として捉えていきたいと思ったんです」
大塚さんは以前、親戚の家の設計を手伝い、いい家ができたと喜んでもらった思い出がある。その時の気持ちを「もう1度味わいたい、ならば次は住宅で」、それも「相手の顔が見える家づくり」に行き着いた。
 独立開業の時期とオープンネットとの出会いが重なった。学生時代からの知人が、大塚さんに住居兼アトリエの新築を依頼。積算をやってきた経験の延長線上で、分離発注を考える。分離発注による予算オーバーで裁判を起こした知り合いもいて、建築士仲間からは10人中9人に反対されたが「やり方は一緒、チャンスは1度しかない」と決心。オープンネットには77番目の会員として登録する。オープンシステムの補償制度も心の支えになった。だが、当時は関東ではGyousyaBankに登録している専門工事業者が少なく、インターネットを利用して自ら職人を探した。そこで“下請けは一切やりません”と公言するこだわりをもった塗装業者に出会った。そこから地元の職人グループを紹介してもらい、業者は一気に集まった。

日本の伝統工法を守るのも設計士の役割
 地元に古くから根を下ろしている大工に頼めばいい家が建つ、一昔前の建築のいい部分を復活させたいと大塚さんは願う。金物に頼らずに、手刻みのホゾと仕口、込み栓で柱と梁を支える日本の伝統的な大工技術。これを支えるのも建築士の仕事の1つ、と大塚さんは考える。
 「設計はするけれども、やっぱり大工さんに造っていただくという気持ちが前提にあります。生意気な事は言えても、私に大工仕事はできませんから、確かな技術で造ってもらえれば嬉しいし、現場では“凄いな”と尊敬のまなざしで見ています。親方が刻む手仕事を、若い大工さんが見るだけでも技術の伝承になる。それがなければいい職人さんがいなくなってしまう。設計士にもすごい責任があるんです」

施主も設計士も業者も満足した家づくり
 「坪単価はオープンネット会員で一番高いのでは?」と笑う大塚さん。家族の笑顔を見るのが第一で、「分離発注で安く」は頭にはない。適材を適所に使う。炭化コルクはオープンネット経由でポルトガルから輸入し、建材や建具、設備は、全国のメーカーから集めた。大黒柱に24p角の杉を使った家を造ったり、会津で見つけた材木屋まで施主の親子を連れて行き、実物の木を見て選んでもらったりもした。
 オープンシステム第1号の家が完成した時、大塚さんは、完成した家に業者と施主を集めてちょっとした祝賀会を開いた。その後、職人だけの飲み会で、60歳を過ぎた大工が親方に「この仕事を紹介してくれて本当にありがとう。今までこんな仕事はしたことがなかった。お施主さん、設計士にもあんなに喜ばれて、嬉しかったよ」と涙を浮かべながら話したという。
 「造る人の気持ち、心を大切に、という初めの目標が達成できた」この話を伝え聞いた大塚さんにとってもそれは喜びであり、仕事を邁進させる力となったようだ。
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