コラム/建築革命宣言!
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第44回家事をしやすい家が一番
主婦の目線に立った家づくり
御前 好史 2001.12.10

オープンネットの特色の1つに、家を建てたいと思う人がネットを通して申し出て、後日、複数の建築士と直接対面する「お見合い」がある。4月に、オープンネットに入会したみさき建築研究所の御前好史さんは、このお見合いで5割という高い成約率を残した。もちろん数字が重要なのではない。御前さんの話からは未だ距離のある一般市民と建築士の出会いの大切さ、施主が家づくりに求めるものの本質が垣間見える。

お見合いの成功率は過去の仕事に鍵
 ITでの巡り合いを経た後に、顔を突き合わせて話し合う。「お見合い」は時代の最先端と原始的な面を併せ持つ、建築家と施主の出会いの場だ。そこで高い成約率を残す理由の1つとして、御前さんは過去の職場での経験を挙げた。御前さんは大学院を卒業後、営業設計者として大手ハウスメーカーに就職。そこでは時に応じて営業マンと一緒に会社を出て、施主の家を訪ねることもあった。
 「あの頃は、数をこなすだけで大変な日々でした。今のように自分で営業しなければいけない時、相手にどう話せばいいのかといったノウハウはやっぱりあの時代の経験から出てくるものではないかと思っています」
 その後、御前さんはハウスメーカーを辞め、設計事務所に転職した。以前は責任は設計に対してだけだったが、家1軒全体に対する責任に変わる。一生懸命仕事をこなしても、それは個人に対する評価ではなく、設計事務所に対する評価になった。「クライアントと本当の一対一の関係」になりたいと思い、御前さんは7年前に独立した。

自分の考えをさらけ出せるかが大事

 ハウスメーカーは現在、新築住宅のシェアの4割を占め、さらにその割合を高めている。昨今、家づくりへのアプローチは多岐に渡り、家を建てたいと思った人の選択肢は広がってきている。ハウスメーカーの存在意義は変わらないとしても、選択肢の1つとして建築士に依頼するケースが増えている。「設計者がひとつひとつの住宅を作っていける時代が来た」と話す御前さんは、1年前、オープンネットに入会する以前に分離発注で家を建てた経験がある。苦労は多かったが、コストダウンの方法を学ぶ機会として有益だった。オープンネットに入ってからは分離発注の方法をさらに学んだ。ネットを通して顔を知らないエンドユーザーとの出会いも転がりこんできた。
 近いようで遠い建築家と一般市民との距離。それを結び付ける太いパイプがオープンネットであり、出会いをより強固にするのは生身の人間が繰り広げるコミュニケーションと御前さんは考える。
 お見合いは、過去に設計した実例を見せるが、ほとんどは雑談で終わってしまう。施主がこの時点で求めるのは、マイホームに対するプラスαのアイデア。だが、ここで何より大切なのは理想の家を目指して、建築家と施主が心の内をさらけだせるかどうか、この一点ではないかと御前さんは考える。
 「図面やスケッチは自分の言葉。想いを相手にわかってもらえるように翻訳しているわけです。深く理解してもらうためには自分をさらけ出さなければならない。勇気もいりますが、特に住宅の場合はそれによって相手も本音をぶつけてきてくれるんです」

家事が快適にできる家
 御前さんが施主と話す時に重要視しているのは家事に関する話題だ。独立直後の仕事がまだ少ない頃、御前さんは夫婦で家事を分担していた。子供を保育園に迎えに行き、帰りに買い物をする。家で料理を作り、子供に食べさせた。奥さんが仕事で遅くなるときは、子供を入浴させて寝かしつける。もちろん、仕事が忙しい時には相手に任せることもある。そんな自身の経験から得たものを、御前さんは施主と話す時に活かしている。
 「家事のしづらい家は1番住みにくい家だと思います。家の中の空間をどうやったら快適に造れるか。料理がしやすい、料理を作りながら片付けや洗濯もできる台所を提案する。でも、それを自分で体験していないと説得力がないですよね。生活が始まってみなければ分からないこともありますから。そういう生活に密着したところで話し相手になれるかどうかが大事だと思います」
 体験と実感からこぼれる話に女性は身を乗り出す。家事を好む、将来“濡れ落ち葉”になりたくない男性もこれに続く。今ははっきりと家事参加を拒む男性も、将来を考えて造っておけばいつでも参加できる。生活のミクロの視点から設計を始める。これこそ家づくりの原点といえるだろう。
 将来の生活を想像して施主と一緒に考えながら設計ができる。そんな時、御前さんは仕事にやりがいを感じると微笑む。
 「一対一の対等な立場で双方が会い、真剣に話をしたり探り合ったりする場として、お見合いは最高だと思います。我々はそういう場を体験することが大事なんじゃないかな。良かったらなぜ良かったか。ダメな場合も理由をじっくり考えてみる。相性がいい、悪いだけで片付けていたら人間として成長しないのではないでしょうか」
 試行錯誤と熟考が次なる施主との出会いをより円滑にし、遠かった建築士とユーザーとの距離を縮める。オープンシステムで契約し、工事直前の物件を複数抱えて多忙な御前さん。実績を残した暁には積極的にセミナーを開いてオープンネットの思想を広げていきたいと考えている。建築士が心を開いて自分という人間をどんどん売り込む、それは市民と建築士をさらに一歩近づける結果になるはずだ。
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