オープンシステム参考資料
12.日本建築学会「PM/CMの事例報告」
1996年夏、日本建築学会から書面が送ってきた。日本建築学会といえば権威のかたまりだ。自分なんか会員になろうなんてことすら考えたこともなかった。

その建築学会から書面が届いた。最近少し専門誌で取り上げられたので、入会の案内でもきたのかなと思って封を開けた。そこには「我が国の建築プロジェクトに於けるPM/CMの現状と課題に関するシンポジウムの講演と論文執筆の依頼」とあった。ハッ?何のこっちゃ?しばらく意味が飲み込めなかったが、これは大事件だ。さすがに驚きを通り越した。建築学会の担当者に問い合わせ、意味が次第に分かってきた。

1994年に日本建築学会が、PM/CM特別研究委員会というのを発足させ、研究に入った。委員の中には、大学の先生、建設省、郵政省等の官僚、スーパーゼネコンや日建設計の人達が加わっている。ジョンバチェラー、久富洋、原田誠等建築専門誌を読んで知っている人もいる。海外では比較的に定着しているPM/CMは、行きづまりが予想される日本の建築に、新しい道を切り開く為の有力な手法として、研究を始めたらしい。

私達の建築革命宣言〜オープンシステムが、PM/CMと本質的に同じであるので、我が国の先進的事例として、セミナーで講演してほしいというのである。恥ずかしいことにそのときまでPM/CMということを私は知らなかった。こんなやり方が発注者にとってより良いのではないか、またこんなやり方が設計者が本来あるべき姿ではないかと、試行錯誤を繰り返しながら手探りの中で実践的に築き上げてきた。それが私達の実践してきたオープンシステムである。時代の先を読んだ、などという大それた気持ちは勿論ない。しかし、時代は確実にオープンシステムを求め始めたことを感じた。

講演内容を打ち合わせるために上京した。委員の人達の中に自分が居る自分が少し場違いな感じがした。「私はどんな事を話せば良いのでしょうか。何を話しても良いのでしょうか。建築には裏と表があって、裏の部分にこそ真実がいっぱい隠されています。例えば公共工事をする際に、私達設計事務所は建築士事務所協会からまわってくマル秘の単価表で、工事費を見積ります。その金額が基準となって工事が落札します。マル秘の単価で見積もった金額と、市場で実際に取り引きされている金額の比較を、シンポジュウムで公表しても良いのでしょうか。」と質問した。少しの間沈黙があった。

「かまわないと思います。何でも自由に話して下さい。特に何故このようなことに取り組み始めたのか、動機などをお話されたらよろしいのではないでしょうか」。この委員の方々も、かわらなければならないと思っている。変化を望んでいるのだなと感じた。

「私は学者ではありません。研究者でもありません。実践者です。したっがて、シンポジウムでは、研究論文の発表というより、実践報告、あるいは体験レポートという形を取らせていただきます。」ということで、約1万字の論文形式にまとめ、講演させていただいた。

建築の学術的な中心部分で、建築革命が少し進展した。革命は忍耐力、少しずつ着実に前へ進もうという情熱が、5年、10年、20年で大きく前進する。

あきらめないこと。あきらめない人が最後は勝つ。努力の人が最後は勝つ。私自身がそういう人間だといっているのではない。私はそれを信じてそういう人間に成ることを目指している。
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