オープンシステム参考資料
13.オープンシステムの理念
ある建築家の言葉を引用する。

現在の生産システムは、ほとんどの決定が、遠いところで行われるように組み立てられている。つまり決定は、その結果とは関係の薄い人々によって下されるのである。建築家は顔も見たこともない人々に関して決定を下す。技師は触れもしなければ、塗装したりもたれかかったりもしたことのない柱に関して決定を下す。政府当局は、自分たちがそのような決定を下している場所に対して、いかなる人間的な関係も持たないで、道路や下水道に関して決定を下す。一方、板を釘づけしたり、煉瓦を積む職人は、自分たちがつくっているあらゆる詳細について何ら決定権をもたない。また、そこで遊ぶであろう子供たちも何の決定権をもたない。子供たちの遊び場である砂場に対してさえもである。

要するに、現在の建築システムは、物ごとが注意深く、また適切に行われることをほとんど不可能にしているのである。なぜなら、ほとんど例外なしに、決定が間違った手の中にあるからである。クリストファー・アレキザンダー(アメリカ1982年)

私が提唱している「オープンシステム」の基本的な考え方を整理してみる。以下にまとめたものは、いわばあたりまえのことである。ところがこのあたりまえのことが、現在の建築業界では、ほとんど逆になっていると考えたほうがよい。

考え方1
建物はそこに住み、働き、生活する人が、計画段階から深くかかわり、自分たちも参加して結論を出したほうがより良いものができる。そのためには価格や施工技術等の建築情報が、発注者に正確に伝わらなければならない。

考え方2
発注者、設計者、施工者等、建築にたずさわる人たちは、互いの特質を活かして、知識と技術を出し合ったほうがより良いものができる。つまり全員がイコールパートナーという立場であり、上下関係は存在しない。

考え方3
専門知識や技術で報酬を得る人たちは、工事参加の機会を平等に与えられ、正しく評価された上で受注しなければならない。また、現代社会にあっては価格競争力も技術力の一部である。オープンシステムが目指すもの

「オープンシステム」と言ってもほとんどの人にはなじみが無い言葉だと思う。これは私達の事務所が勝手に付けた名前であるので、やむを得ない。この名前は1992年から使っている。一応商標登録もしておいた。設計監理の手法が、今までとはまったく違う新しいやり方なのだということを強調し、周りにいる建築業界の人や発注者の人達に理解を求めていく為にも、新しい呼び名を付ける必要があった。「直営方式」「分離発注方式」などの言葉では「発注」という狭い部分に限定され、かえって私達の考え方が伝わりにくいと思い、「オープンシステム」という呼び名にした。

コストに限らず建築というものは、私達設計者でもよく見えない部分が沢山ある。発注者にとってはなおさらであろう。建築工事にまつわる談合や賄賂は後を絶たないし、発注者のみならず一般市民までもが不信感を抱いている。これらの多くは建築プロジェクトの閉鎖性、つまり見えない部分が多すぎるというところに起因している。

そこで私達は「見せざるを得ない仕組み」として「オープンシステム」を考え、私達設計者に見えた部分は発注者に全て公開し、共に考え共に結論を探っていくということで始めた。つまり全てオープンにしていく、という意味の「オープンシステム」であり、芸が無い名前といえば確かにその通りである。

私達はPM/CMを研究してこの方式を始めた訳ではない。たまたま建築業界ではこのような方式に対する社会的な要請が生じ、研究もされ始め、我が国のPM/CMの先進事例として私達の手法が日本建築学会などから注目された。

今までに携わった物件は約70件くらいになるが、今のところ私達の目の届く範囲ということで、住宅を中心とした小規模建物が多い。どの程度の規模がやりやすいか、ということに関してはそれぞれの事務所の経験と能力に依ると思う。最近「オープンシステム」を始めたある事務所では、元ゼネコン出身ということもあって、木造住宅よりもむしろS造やRC造の大型物件のほうがやりやすいということである。

建築を施工する会社にとって、技術力そのものが商品といっても過言ではない。技術力は即価格(工事代金)に反映する。ところが、建築業界は技術力以外の要素で受注がきまるという側面が非常に大きい。営業力、宣伝力、政治力、さらに談合体質。これらはおのずと高コスト体質につながらざるを得ない。

現実の施工面においても、総合建設会社(元請け)が専門工事会社(下請け)に外注という形で依存せざるを得なくなっている。専門工事会社においてさえ、受注してはさらに外注(孫受け)にまわす、ということも多くある。代理機能しか果たしていない会社が通用するのも、建築業界の仕組みの複雑さ故である。

それにしても、あまりに高い代償を支払わなければならないのは、いったい誰なのか。オープンシステムは、私達設計者が発注者のスタッフとなって、専門的な知識と知恵と技術を駆使し、業務に対する必要な報酬を受け取って、プロジェクトを完成させる手法である。技術力で競っている会社に工事参加の機会を与え、金銭的なメリットと質的なメリットを、直接発注者にもたらすことを目指した手法がオープンシステムである。

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