オープンシステム参考資料 |
15.事例1 酒量販店 1W 500u
用途 |
酒類量販店A |
構造 |
木造平屋建て |
規模 |
延べ床面積500u |
建設場所
|
鳥取県米子市 |
完成 |
1993年6月 |
93年7月、酒類量販店Aが私達の新しい試みによって完成した。消費者は今の価格にけっして満足していない。良い品を安く、言い換えれば商品の価値に値する適正な価格で手に入れることを
望んでいる。
この建物の発注者は酒類の流通に挑戦して、消費者の要望に答えようとした。私達建築設計者もまた、
建築の多重下請け構造という仕組みに挑戦して、発注者の要望に答えようとした。奇しくも、この建物
がオープンシステムの第1号となった。
流通業界には、メーカー→問屋→小売店→消費者という流れがある。建築業界には、下請け会社→
元請け会社→発注者という構図がある。当初私達の最大の関心事は、既存の請負方式によって生じている
大きな無駄をいかに省くか、という点にあった。この建物は建築工事の各セクションを担当する15の
専門工事会社に分離発注して、工事を完成させた。
見積参加の呼びかけは、各専門工事会社を訪問して私達の趣旨や方式を説明してまわった。この方式
を理解してもらうことに、そうとうの労力を必要とした。賛同を得られたところから、各業種ごとに
2〜3社づつ参加してもらった。工務店には声をかけなかったが、参加希望が1社あり、拒む必要も無いので参加してもらった。
最終的に決定した各専門工事会社の金額と、その時に工務店が提出した見積金額の比較を示す。
合計金額を比較しやすくしたため、( )内の金額は合計額に加えていない。設計料200万円、
工程管理料200万円の計400万円が私達の業務報酬料。どの程度の業務が発生するのかという
データをとる必要があったことに加えて、私達にとっては実験的にさせていただくということもあり、
かなり安く設定した。600万円位が適正かと思う。
酒の量販店の専門工事会社と工務店の見積金額の比較
項 目
|
専門工事会社
|
工務店 |
仮設工事 |
62万円 |
417万円 |
基礎工事 |
380万円 |
600万円 |
木工事 |
1,566万円 |
1,490万円 |
板金工事 |
470万円 |
866万円 |
左官工事 |
26万円 |
47万円 |
防水工事 |
48万円 |
92万円 |
金属製建具工事 |
245万円 |
340万円 |
木製建具工事 |
55万円 |
178万円 |
内装工事 |
51万円 |
25万円 |
塗装工事 |
99万円 |
150万円 |
住設機器 |
29万円 |
33万円 |
電気設備工事 |
500万円 |
558万円 |
給排水設備工事 |
123万円 |
150万円 |
空調設備工事 |
(386万円) |
別途工事 |
設計料 |
(200万円) |
|
工程管理料 |
200万円 |
|
諸経費 |
|
340万円 |
計 |
3,854万円 |
5,286万円 |
表1以外にかかった費用として、仮設光熱費、仮設トイレ汲み取り料、給水負担金、工事期間中損害
保険料の計10万円程度。工事期間中の掃除、完成時の美装は現場があまり汚れなかったので、発注者と
事務所のスタッフが行った。その分当初の予算より約20万円費用が浮いた。現場で発生したゴミは、
各専門工事会社が責任をもって持ち帰る約束だったが、結果的にはうまくいかず、2トン車1台分の
ゴミ処理が必要になった。
木造の大きな空間をローコストで、というのがコンセプトであった。この目的が本当の意味で達成
されたのか、ということについては、まだ結論が出せない。この業界には、ローコストに繋がる未解決
の要因が、まだ数多く残されているような気がする。
それはともかく、いままでの建築設計事務所としての感覚からは、驚くほどのローコスト建築であり、
工務店の見積と比べても、かなり安くなっているのは事実である。それにしても、5,286万円から
3,854万円を差し引いた1,432万円が、工務店の利益として、各項目の中に隠されているとは
信じがたく思う。そこで、考えられそうな他の要因を推論してみた。
- ローコストに結びつく設計上の工夫を盛り込んだが、工務店の
技術者が設計の意図を専門工事会社に伝える際に、充分理解されていなかったのではないか。従って、
いままでのように材工共の感覚で、単純に積算数量×単価を集計しただけではないか。
- 工務店は下請会、協力会といった専門工事会社のグループから見積をとっている。このように外注先が固定化され、価格競争が生じにくい中での見積は、
実勢価格が反映されていない部分があるのではないか。
というようなことが考えられるが、あるいは本当に高コスト体質になってしまった為、
多くの経費を必要とするのだろうか。