オープンシステム参考資料
16.事例2 個人住宅 2W 219u
 用途 個人住宅
 構造 木造2階建
 規模 延べ床面積 219u
建設場所 鳥取県米子市
94年12月   O氏が来社。オープンシステムについて詳しい説明を聞きたいという。私の事務所のことは、自宅と共同住宅を建てた知人から聞いて、興味を持った。また、設計事務所とじっくりプランを練るほうが、きっと良い家が出来るのだろうが、費用が高くつくだろうと思い迷っていた。という話だった。建設業界の仕組み、いわゆる多重下請け構造の中で、いかに無駄な費用が出費されているかを説明し、私の事務所が取り組んでいることや、考え方に対して理解を求めた。
95年1月  O氏と建築士業務委託契約を交わす。オープンシステムによる10件目の建物である。契約書の中には、工事発注代行業務、工程管理業務、さらに工事費予定価格が盛り込まれている。業務報酬料は280万円。(最近はこの程度の建物で、350万円位)
95年2月  基本設計が完了。模型を作って基本設計の内容を再検討。模型の縮尺は50分の1。間仕切りや建具がはめてあり、屋根を外すと内部を見ることができる。外観のイメージ、動線、風の通り道、光の入り具合等を、O氏の家族と共に検討。計画案(図面)ではよく解らなかったことが、模型を通して初めて解ることもあったらしく、この段階でけっこういろんな意見が飛び出す。手間は掛かるが、けっして無駄ではない。現場での変更による手戻りを考えると、充分元はとれている。
95年3月  実施設計。設計者自身が見積もり、専門工事会社の選定、工程管理をすることが前提なので、実施設計はあくまでも実用的な図面、計25枚。30〜40社の専門工事会社が、見積もりに参加してくるので、同じ条件で見積もりが出来なければならない。また、現場で施工図を描かせて検討、などという考えは無い。
95年4月  見積もり開始。仮設工事、基礎工事、屋根工事・・・と各業種毎に、専門工事会社2〜3社に声を掛け、見積もりに参加してもらう。原則として、最も低い金額を提示した会社と内容を再検討し、採用する。実勢単価の把握、これが設計事務所にとって、いちばん自信がない分野かもしれない。 建築主の委託を受けて、設計事務所が業者を選定し、工事を発注する権限を持たないと、専門工事会社はけっして突っ込んだ金額を提示してこない。実勢金額は市販の積算資料や設計見積りでは、けっして把握出来ないのである。専門工事会社が自由な競争のもとで、本気で勝負をしてくる状況でのデータが必要である。全国各地からこのようなデータがある程度集まれば、毎回専門工事会社から見積もる必要は無く、設計者が金額を査定する、ということが可能になる。
95年5月  O氏と各専門工事会社が、工事請負契約を交わす。価格交渉、VE提案を検討して決定した、各専門工事会社の金額、支払日、振り込み先の一覧と工事工程表を作成して、O氏の承認をいただき、各専門工事会社毎に工事請負契約書を作成。契約した専門工事会社の数は13社。 ほとんどの会社が、この日初めてO氏と顔を会わせた。従って「塗装工事の○○です。この度はよろしくお願いします。」というようなあいさつが一社づつ交わされた。普通、建築主と専門工事会社がコミュニケーションをとるという機会があまり無い。 尚、あらかじめ見積もることが難しい項目、例えば現場で発生するゴミの処理費用、仮設光熱費等は推定金額を予備費として計上し、後に実費清算した。工事期間中の保険は、建築主と損保が契約。普段は下請けの専門工事会社が、このときは全て元請け会社なので、労災保険は各々の会社が加入。
95年5月  工事着工。設計者が工事工程表に則って、各専門工事会社と連携を取りながら、工事の工程を管理する、とはいっても、一日中現場に張り付いているわけではない。日常の設計監理業務の延長で考えられる範疇、と思ってよい。打ち合わせの相手が工務店の現場監督か、専門工事会社の職人かの違いはあるが。計画、設計段階で、建築主とかなり密に打ち合わせ、検討をしてきたので、現場での変更はほとんど無かった。
95年11月  工事完成。建築士業務委託契約を交わしてから約300日。担当の設計者は、設計中や監理中の物件を、常時3〜4件抱えている。この住宅の設計監理、見積り査定、業者選定、工程管理等に要した建築士の業務人日数は、延べ120人位。結果から逆算すると、業務報酬料はけっして高くはない。しかし、私の事務所にとって、建築主から必要とされている、という確かな実感が持て、さらに、新しい分野を切り開いていくことが出来る、という可能性までいただいた。
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