オープンシステム参考資料
5.建築のコストについて
(この文章は日本積算協会「建築と積算」1997.12月号に執筆した内容の一部です)
「オープンシステム」以前、まだ普通の(?)設計事務所だった頃、「建築のコストとは何か」ということを考えさせられることが何度かあった。そしてこの度、日本積算協会から原稿の執筆依頼と共に「建築と積算」という雑誌が送られてきて、そこには建築のコストをめぐっての特集が組まれていた。建築積算のプロを自認する人達の中にもコストに対する考えかたがまちまちで、多少困惑している様子が見られた。おそらくこの問題はCM/PMという考え方がやっと定着する兆しが見え始めた日本の建築業界に於いて、これからさらに議論を深め、体験を積み重ねながら徐々に結論が導き出されていくことであろうと思う。

ちなみに、私達が仕事をしている地方都市(鳥取県米子市)には積算事務所というものが無い。そのような需要が無い、ということかもしれない。大都市には建築の積算数量と単価をはじき出す業務で、このように大きな職能集団としての地位を確立している人達がいるということに改めて感心した。

建築プロジェクトに於ける見えない部分の代表格、それがコストである。今回「オープンシステムとコストを含む実施事例」というテーマでまとめるよう課題を与えられた。私達の事務所がこれまでに携わってきた事例は、小規模な建物の事例ばかりであり、反対に積算事務所の業務は大規模建築物が中心だと思う。従って、実際に携わっている業務にはそぐわない内容も随分あると思うが、出来るだけ事例をまじえながら「オープンシステム」以前と以後に於ける私達のコストに対する考え方や捉え方の変化などを比較してみる。その中で設計事務所にとって、コスト管理、コストコントロールが何故必要なのか、ということが少しでも見えてくるなら幸いである。

さて冒頭に戻って「建築のコストとは何か」を考えさせられるようなこと、というのをいくつかあげてみる。これはなにも特別な例ではなく、設計に携わっている人なら誰もが経験することだと思う。

その1・新商品の売り込みなどで、建材メーカーや建材店の人が設計事務所にPRに来る。そして価格を聞くと、「設計価格」というものを答える。そもそも設計価格というものは何だろうか。定価、設計価格、ゼネコン価格、専門工事会社価格、市販されている建設物価、積算資料の価格、さらに公共工事用のマル秘の価格、建築業界にはいろんな価格がある。いったいどれが本当の価格なのだろうか。 このようなことに対して以前はしょうが無いか、設計者には本当の金額を言う筈が無いと半ば諦めていた。最近は違う。メーカーが商社に売る金額までは勘弁してやるが、せめて建材店が工務店に売る金額は聞き出すことにしている。答えないと見積りに参加させないと脅しながら。

その2・「オープンシステム」以前は共同住宅の設計が多かった。現場説明や見積り合わせにもよく立ち会った。建物の規模からして、地元の工務店数社から見積りをとるということが多かった。施主にとって、付き合い上できれば工事をさせてやりたいという工務店もたまにある。しかしその工務店がいちばん安い見積りを提出するとは限らない。ところがこういった場合でも最後は不思議と丸く(?)収まるのが建設業の凄さである。 その工務店はほとんどの場合こう申し出てきた。「いちばん安かったところに合わせるので、是非我が社にやらせてほしい」と。たったそれだけで2億円くらいの見積りが1億6千万円くらいになったりした。それでは最初に提出した見積書はいったい何だったのか。

「オープンシステム」では少なくともこのようなことは解消された。ゼネコンや工務店といった元請けの会社が見積りに参加してくる場合、見積書の各項目には直接下請け(専門工事会社)に支払う金額を記入することを条件付けている。そうでないと、専門工事会社グループから出てきた見積書と比較され、下請け会社はどんどん入れ替えられる。

その3・この事例は現在進行形、オープンシステム経験後である。知り合い(施主)が住宅を立て替えることにしたというので相談があった。場所は千葉県なのでとても「オープンシステム」では対応出来ない。そこで一度現地を見たうえで基本設計のみさせて頂いた。実施設計と施工は施主が商社系のハウスメーカーに直接依頼するということだった。 ばらくすると施主が「実施設計と見積をチェックしてほしい」と言ってきた。設備関係の図面が十分でなかったので、とりあえず建築主体工事の単価をチェックした。送られてきた見積書の上に専門工事会社レベルの単価を落とし込んで計算すると、4,600万円の見積りが1,334万円ダウンした。ただし諸経費の390万円はそのままにしておいた。 施主は私が上書きした見積書をそのまま施工会社に見せ、再検討してもらうことにした。そうしたところ当初の見積りより700万円安い見積書が再度提出された。設計内容は変更していない。これはいったいどう解釈すれば良いのだろうか。 私達設計者が、実際に分離発注で契約している各業種ごとの単価まで明示する訳だから、ハウスメーカーや工務店には相当ショックであり、インパクトがある。
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